昨日、館山市の沖ノ島にザトウクジラが漂着しました。
漂着したザトウクジラを見るのは初めての経験なので、じっくり観察してみたいと思い、現場へ向かいました。
現場を訪れると、たくさんの見物人の方々とともに、テレビの撮影隊がいたり(上記写真)、上空にはフジテレビのヘリコプターが旋回していたり・・・。
予期していなかった混雑ぶりに戸惑いながら、撮影をしていると、自分と同じように長靴を履いて、一眼レフを持った方がもう1人。
その手の”プロ”の雰囲気は一目でわかるもの。話し掛けてみると、館山でシーカヤックツアーを催すかたわら、海棲哺乳類・海亀・チョウ類等の保全・調査活動を行っている6DORSALS KAYAK SERVICESの藤田さんでした。クジラが取り持ってくれたご縁です。
藤田さんのおかげで、ザトウクジラの観察はとてもとても充実したものになりました。
(以下の部分には普段見慣れない生き物の写真があります。お気になさる方はクリックしないでください。)
漂着したザトウクジラの体長は約10mで(藤田さんの計測による)、おそらくオスの個体だろうとのことでした。
まず教えていただいたのが、クジラの体表にについているフジツボ。
磯で普通に見るフジツボよりも大きいフジツボが、顎の下の部分、胸びれの部分についています。
拡大してみると、
殻の模様が特徴的です。オニフジツボという種類でしょうか?残念ながら生きている個体を見つけることはできませんでした。
体の表面には、もっと小さないきものも付いています。
体長1cm程度のこのいきものは、生殖孔や肛門の周辺や体表の傷の周辺に多数ついています。一部はまだ生きている個体も見られました。
拡大した写真がこちら。
これはクジラジラミです。Cyamus属の一種でしょうか?素人判断ですが、形の違うものが2~3種類程度着いていました。
陸の動物につくシラミは昆虫類ですが、クジラにつくシラミはエビ・カニなどと同じ甲殻類に属します。藤田さんによると、このクジラジラミの生態に関しては、わかっていないことが非常に多いそうです。このような漂着したクジラから得られる情報は、とても貴重なものだと言えます。
ザトウクジラと言えば、”ブリーチング”と呼ばれる大きなジャンプが有名です。
このブリーチングをする理由の1つとして、体表に着いているフジツボやクジラジラミ等の寄生虫を落とすことが上げられています。実際にクジラの体表に着いている寄生虫の様子を垣間見ると、確かにそうかもしれないなと思いますね。
最後に紹介するのが、クジラの表面についている傷です。
クジラの体の中でも、特に生殖孔・肛門周辺にはこのような傷が多数見られます。
傷を拡大してみてみると、円形の特徴的な形をしていることがわかります。
中には、表皮が削られたままの新しい傷も見られます。
この傷は、”クッキーカッターシャーク”というサメによってつけられたものだそうです。特異的な動きでクジラ、イルカ、カジキ、マグロの肉塊を剥ぎとって食べる習性があり、その際に生じる円形の傷がまるでクッキーの型のように見えることから名付けられたそうです。和名は”ダルマザメ”といいます。
こちらのサイトによると、クッキーカッターシャークは体長50cmほどで、昼間は水深3000mの深海にいて、夜に浅海に移動して餌を取っているそうです。私たちが普段みることができない海の中で繰り広げられている生き物たちのドラマの痕跡です。
ここでは、クジラの表面から得られる情報のほんの一部を紹介したに過ぎません。漂着したクジラには、本当に色々な情報が含まれています。
このような漂着を含めたストランディング自体は海棲哺乳類自身にとっては痛ましい事故なのですが、漂着した個体から得られる情報を生かしていくことで、海洋生物や海洋環境の保全につなげることができると思います。その点、海棲哺乳類データベースのようなサイト(今回この記事を書く上で初めて知りました)があり、情報を共有・蓄積していることはとても素晴らしいことですね。
現場で貴重なレクチャーをして下さった藤田さん、本当にありがとうございました。
コメント
す、すごい・・・。お写真にびっくりしました。
クジラジラミが海の中で、ガッチリと泳ぐクジラにしがみついているのですね。
クジラというと、大きくて立派で敵なし!というようなイメージがありましたが、苦労して必死に生きてきたという様子が伝わります。
まさに生物多様性をあらわしていると、感じました。
貴重なレポート、ありがとうございます!
ズミ子さん
海の底はなかなか見ることができませんが、色々ないきもののドラマがあるんですね。
そのドラマの一端ですが、ブログを通じて皆さんにお伝えすることができて、良かったなぁと思います。ストランディングの現場を訪れることができた恵まれた人間の”責任”みたいなものをちょっとでも果たせたかな?
[…] クジラのストランディングの際にお世話になったシーカヤッカーの藤田さんから、スナビキソウに集まるアサギマダラのお話を伺って以来、ずっと撮影したいと思っていました。 […]